いのちの不思議ー餓鬼道からの脱出ー
 
                              医 師 甲 田(こうだ)  光 雄(みつお)
大正十三年東大阪市に生まれ、大阪大学医学部を卒業後、断食療法、玄米、生野菜食療法などを研究・実践し、昭和三十四年八尾市で開業。少食・断食健康法を指導している。
                              ききて 金 光  寿 郎
 
金光:   大阪府東南部。東は奈良県に接して広がる八 尾市。大阪と大和を結ぶ重要な交通路として 栄え、現代では商工業都市として発展してい ます。今日は八尾市の中心部で医院を営む、 医師の甲田光雄さんをお訪ねします。甲田さ んは、大正十三年生まれの七十七歳。大阪大 学医学部を卒業されました。開業以来の医療 は、断食・少食を中心にした、自然治癒力を 活性化させる東洋医学の方法ですが、その成果を裏付ける西洋医学の研究も行っ ている方です。
 
金光:  ごめんください。
 
甲田:  はい。
 
金光:  お邪魔致します。此処にある菜園は自家用の ものでございますか。
 
甲田:  ええ。自家用でもありますし、また入院の患 者さんたちにも食べて頂くために作っておる わけですね。
 
金光:  これはセロリですし、それは菜っぱですか。
 
甲田:  広島菜というやつですね。
 
金光:  いろいろ作られるわけですか。
 
甲田:  ええ。やはり生野菜を食べる時には、出来る だけ種類を多くした方がいい。少なくとも五 種類位が作らないといけないという、そうい う我々の健康法では考えておりますので、だ から、成る可くたくさん種類を変えて作って いるわけですね。
 
金光:  それじゃ菜っぱだけでなくて、ネギとか、ナスとか、この辺の八百屋さんにある ような普通の野菜がかなり作られるわけですか。
 
甲田:  そうです。
 
金光:  さっき、蝶々も飛んできまして、見るとポツポツ穴が開いてい ますが、勿論、農薬なんか使わないわけですね。
 
甲田:  これは農薬をかけないからですね。また化学肥料も使っており ません。まあ言えば自然農法ですね。
 
金光:  やっぱり薬とか、そういうのを使わない方が、身体にはいいということですか。
 
甲田:  そうです。だから、自然農法と自然医学とを合体したような治療法ですね。
 
金光:  それで人間の方にも薬も使われないし、勿論、注射もなさらない、という療法を 長く続けていらっしゃるということで、そのお話をお伺いしにお邪魔したわけで すが、その点については、中でお話を聞かせて頂きたいと思います。
 
甲田:  はい。分かりました。
 

金光:  甲田先生は、大阪大学の医学部のご出身で、お医者さんになっ ていらっしゃるわけですが、当然、西洋医学の勉強をなさった と思いますけれども、それが注射もしない、薬も飲まさないで、 自然に治る療法を長い間続けていらっしゃる。東洋的な医学な んかも取り入れていらっしゃるんではなかろうかと思うんです が、若い頃からそういう方向に関心がお有りだったんでござい ますか。
 
甲田:  ええ。実は、私は、若い時から大病ばっかり繰り返しておりま して、中学校三年の時は、慢性胃腸病で二年間休んだんです。
 
金光:  えー。
 
甲田:  それから今度は復学して、中学五年の時に、また黄疸がでまし て、急性肝炎ですね。そういうようなことでまた休む。治り切 らないのに、今度は陸軍士官学校へ行って、猛烈な訓練を受け たために、慢性肝炎になってしまったわけです。それでもって非常に苦しんで、 戦争が終わって帰ってから、なんとかして健康になりたいという思いから医学部 を選んだわけです。
金光:  虚弱体質と言われている、そういう体質だったということでは ないんでございましょう。
 
甲田:  ええ。体格は非常に大きかったんですけども、腹の中はもう病 気ばっかりでしたね。
 
金光:  それで医学部にお入りになりました
 
甲田:  ところが、医学部に入っても一向に健康にならないで、三年の時に、またぶっ倒 れました。そして、二年間休んだわけです。その時に、長い間、大阪大学の病院 に入院しておったわけですが、やっぱり慢性肝炎と、十二指腸潰瘍、胆嚢炎、大 腸炎と、お腹の中は病気みたいなもので、長い間入院しておったわけです。その 頃はまだ大学病院という最先端の治療を受けたら治して貰える、というふうな期 待をもって入院しておったわけです。ところがなかなか治らない。ある時、主治 医の先生が、「甲田君、いつまでもな、こんなところにおるよりは、一遍家に帰っ て、のんびり養生したらどうや」と、こう言われた時に、「あ、これは見放された なあ」ということで、非常にショックを受けましたね。一時は絶望に陥っていた んです。しかし、此処で治らんかったら何とかして他に治る道を捜して見ようじ ゃないか、と。それから東洋医学の本だとか、民間療法の本を読んでいるうちに、 築田多吉さんという方の『赤本』というのがあるんです。それを読みましたら、「肝 臓病でも断食をすれば治る」というようなことがありましたもので、私も一遍断 食をやってみようかな、と主治医の先生に相談したわけです。「一遍、断食をして みたいと思うんですがどうですか」。そうしたら、「馬鹿野郎」と言うんです。「そ んな馬鹿なことをしたら死んでしまうよ。肝臓病というのは、君も知っているよ うに、栄養ある物をしっかり食べなあかん。それを食べないというようなことを やったら、治るものがだんだん悪くなるで。絶対そんなやってはならない」と言 われたんですが、私は、此処に居っても、「治らん」と言われたんだから、一遍こ れが嘘かほんまかやってみたいという気持は変わらんかったんです。私の友だち も見舞いに来まして、「甲田君、断食に行くって、ほんとか」と。「いや、もう此 処に居ってもあかんからな、一遍、断食やりたいと思うんやけど」。「それは止め ておけ。そんなことをやったらもうほんとにダメだで」と言う。「いや、もう私の 心はやるということで決まっているんや」。「そこまで言うんやったら、一遍、行 って来いや。俺はな、お寺の息子だから、お経だけはあげてやるわ」(笑い)。死 にに行くように思っているわけですよ。そんなことで、昭和二十五年(一九五○ 年)の八月に生駒の山へ登りまして、そこの断食寮で十一日間の断食をやったわ けです。その時には水ばっかりの断食です。その結果死ぬどころか、かえって元 気になって帰って来た。特に驚いたのは、痔があったんですが、その痔が綺麗に 治ったんです。それから断食療法にとりつかれるわけですね、魅力があって。で、 その明くる年の三月に、また十二日間の断食を釈迦断食道場でやりました。その 年の秋には家で二週間断食やりました。やる度に元気になってきました。だから、 それから断食マニアみたいなもので、昭和三十年頃までに何十回となく断食をや りました。そこで初めてこの断食療法というものは、現代医学でまだ解明されて おらない深い真理があるな、と。私は、この断食療法で現代医学で治らないで困 っておられる患者さんたちを救ってあげよう、と。それがこの道に入ってくるき っかけだったわけですね。生駒の山におる時に、寮長さんの寺井先生が、「この本 を一遍読んで見」と行って渡されたのが、『西医学断食療法』という本だったんで す。その本を読んで、一遍に私の頭の中が変わったわけです。
 
金光:  西勝造先生の本ですね。
 
甲田:  そうです。それまで、私は、「なんでこんな病気になったんや」「どうしたら治る のか」という、全然それが分からなかったが、その本を読んで、「これで今まで病 気したこともよく分かったし、またこの健康法をやればほんとに健康になれる」 という希望と、やる気がでてきたわけですね。
 
金光:  「なんでそういう病気になっていた、原因は何だ」と。
 
甲田:  やっぱり私は大飯食いで、特に甘い物が好きで、トコトンそういうものを食べて きた、ということが─。
 
金光:  そんなにたくさん召し上がっていたんですか。
 
甲田:  そうです。私は、「甲田の牛」と言われるくらい大飯食いだったものです。だから 甘い物でも、饅頭なんかでしたら、一個や二個だったら貰わない方がいい。どう せ食べさせてくれるのなら五つ位くれ。そんな大飯食いで、甘党でしょう。これ を改めないかんな、ということから、山を下りて、それから西式健康法をやるこ とになるわけです。西式健康法というのは、「精神と肉体は一つである。我々の思 いによって、健康にもなるし、また病気にもなる。運命も変わることが出来るん だ。その思いを実現させる潜在意識に叩き込む方法が、西式健康法だ」という。 非常に壮大な教えなんですね。私は、「え、これをやろう」。その方法が六大法則。 板の上に寝て、硬枕したり、金魚運動をやるとか、また水風呂に入るとか、ああ いうようなことをずーっとそれからやり始めてきたわけです。私は、非常に熱心 にそれを実行しました。生野菜は健康にいい、ということが、西式健康法の中に ありますので、今までは生野菜はあんまり嫌いで食べなかったんですが、それか らはもう毎日生野菜を、しかも量が多い位食べてきましたね。あの頃は、ミキサ ーもジューサーもありませんから、こんな擂(す)り粉木(こぎ)と擂り鉢と、一番大きなのを 買ってきまして、それを毎日毎日こうしてやるわけです。五年間擂ったですね。
 
金光:  毎日?
 
甲田:  毎日、昼も晩もね。今になって考えてみたら、よう五年間やったなあと思います ね。余程変わり者か、でないと続かんですね。それが終わってから、今度、ミキ サーを買うようになって、こういう丼にドロドロを作って食べるようになったん です。
 
金光:  結構いっぱいありますね。
 
甲田:  そう。これは昭和三十三年から三十九年まで、約四年と十ヶ月続けたわけです。
金光:  これ一日分ですか?
 
甲田:  いやいや。これは一回で、一日二回食べるんです。
 
金光:  この量を?
 
甲田:  そうです。全部で千五百グラム位ですね。だから、毎日毎日、 千五百グラムをよく食べられたな、と。私ほどたくさん生野菜を食べてきた男は おらんと思いますね。
 
金光:  何回も断食をなさるというと、もう甘い物とか、断食終わった後、昔みたいな食 生活に返らないで、もうすぐこちらへいかれるわけですか。
 
甲田:  ええ。そうです。これもやりながら、西式健康法では、「少食というものが秘訣で ある。健康の秘訣は少食だ。腹七分の少食を実行をしなければダメだ」というの で、私も、少食になろうという気持がそこから湧いてきたわけです。そこで、私 が一番壁にぶち当たったのは、もう大飯食いと底抜けの甘党が一つの大きな壁に なってきたわけですね。なんぼ一所懸命にこの健康体操をやったり、また生野菜 を食べたりしておっても、一発甘い物を食べてしまったら、一遍に身体の調子が 悪くなるんです。これは何としてでも甘い物を止めるということから始めないと、 ほんとに目的は達しないな、ということを痛切に感じましたね。そこから甘い物 との取っ組み合いが始まるわけです。
 
金光:  でも、止めようとすると、益々気になったりして、なかなか止めにくいところが あるますよね、ああいうものは。
 
甲田:  そうです。あの頃の日記を出して見ますと、「何月何日から絶対に甘い物止める」 と書いていますよね。ところが一ヶ月あまりしたら、「大失敗して、夕べは羊羹一 本と饅頭五つ食べてしまった」と。「それやったらもう一遍やり直そう。今度は八 月一日が誕生日だから、誕生日を記念してやろう」と、またこう書いていますね。 また二、三ヶ月経ったら、「また失敗してしもうた。よし、今度は元旦からやろう」 と、繰り返していたわけです。そのようなことで結婚してからも結婚した年で すけども、十二月三十一日、大晦日ですね、私は、「よし、来年の元旦から甘い物 をすっかり止めて、しっかりやるぞ」と思っておったんです。その大晦日の晩に 家内が黄粉餅を焼いて持って来てくれたわけです。私は、それを食べて、フッと 気が付いたら、除夜の鐘が鳴っています。あ、もう新しい年になった。新年早々 から黄粉餅食べてしもうた。これはえらいことやったな。それで家内に、「何でこ んな黄粉餅みたいなもの持ってきたんだ」と言って、喧嘩になるわけです。そう したら、家内がむつっとしてしもうて、もの言わない。元旦早々からほんまに気 まずい思いですね。そんなことで、五十年あまり喧嘩ばっかりしながらやってき たわけです。国家試験を受ける時も、そうでしたけど、私は暢気者で国家試験を あまり受けなかったんです。ところがいよいよ国家試験を受けるということにな って、その前の日に、家の里の兄の家から、内祝いの饅頭を持って来てくれたん です。紅白饅頭五つ入っていたんです。こんな大きな饅頭がね。それを見た途端 に、一つ位食べようかと一つ食べたんです。一つで済まない。一遍に四つ食べて しまった。それで、後の一つ残ったやつを、これはやっぱり気がひけまして、一 つだけでも残しておかんといかんわ、と思って残しておったんです。そうしたら、 家内が保健所へ務めておりましたから、夕方帰って来て、それを見て、「これ、 どうしたんや」。「いや、里から持ってきたんや」。「これ一つしか残っていないが、 あとの饅頭はどうしたか」。「儂、全部四つ食べてしまった」。そうしたら、えらい 怒りましてね。西式健康法では、「甘い物を食べたら、頭が悪くなる」と言 うんです。「明日、国家試験だというのに、四つも饅頭食べてしまって」と言って、 えらい怒られましたね。残った饅頭を取り上げて、庭へバアッと投げつけたのを、 今も覚えていますがね。(笑い)
 
金光:  そういうことまで経験されるほど、お好きだったということですね。
 
甲田:  そうです。どうしても止められなかったら、蜂蜜を食べろ、というんです。蜂蜜 をその頃から食べ始めましたね。その蜂蜜は瓶で買わないんです。大きな一斗缶 ってありますね。二十四キロ入ったものですね。あれを買って来まして、瓶に小 分けして食べるんですね。それは一缶じゃなしに、二缶位買いますからね。私が、 ある時、その缶の蜂蜜を開けて、瓶にこう詰めておったわけですね。それを家内 が見ていまして、「お父ちゃんは、もうお医者さんを止めて、蜂蜜屋さんになった 方がいいんじゃないか」と言いましてね。「何でやねん」と言ったら、「蜂蜜をこ ね回している顔が、一番幸せそうだ」と。まあそんな甘党が、どうしても甘い物 を止めなければならない、ということで、もうほんとに私は苦しんできましたで すね。
 
金光:  それだけ断食を続けられて、身体の調子がよくなっていても、それだけ甘い物を 召し上がると、やっぱりストップするとか、多少悪くなったり、という。
 
甲田:  身体は一遍に悪くなりますからね。私は、この断食療法という素晴らしい療法で、 現代医学で治らん人たちを救ってあげたい、と思ってやってきたけれども、どう してもこの甘い物を止めることが出来ない。そんな情けない人間だったら、もう 死んでしまえ、ということになりますがね。それは何遍やってもやっても失敗し ますからね。終いには、そうしたら死んで終わないといかん、と。よし、それだ ったら、明日死ぬんやったら、今晩思い残しのないように、ぜんざい腹いっぱい 食べようか。まあこんなものですね、人間って。(笑い)
 
金光:  それがどうやって止められたんですか。
 
甲田:  結局、その頃から私は食べ物に対する見方が変わってきたわけです。今までは、 物として見ていましたね。そうじゃないんだ、と。これは神様が、私に与えて頂 くいのちなんだ、と。このいのちを頂いて、私は生かされてきているんだ、とい うことから、感謝の気持で、食べる時に、神様にお祈りして、有り難うございま す、と。これを頂きます。一つの米と雖も、一枚の菜っぱと雖も、粗末にしない、 という。この辺の所から、私は、少食というものの道が、だんだんと拓けてきた わけです。
 
金光:  やっぱり甘い物を食べたい気持が、それで一遍になくなるわけじゃございません でしょう。
 
甲田:  ええ。ありましても、一遍、神様にお供えしたものを頂く、というような気持に なります。で、甘い物を止めるとか、そういう誓いを立てたらかえってダメです。 それは誓った途端に縛られますから。
 
金光:  そうですね。
 
甲田:  窮屈になって、かえって拙いですね。それよりも食べる物を一遍神様にお供えさ れて、それで頂くように。今、私の患者さんたちには、そういうふううに指導し ておるわけです。
 
金光:  先生ご自身がそれだけご苦労になったという、少食断食の方法ですから、患者さ んにいろいろ説明されるのも、人によっていろいろ違いがあるし、なかなか大変 じゃないかと思いますが、その実例を少しご紹介頂けませんでしょうか。
 
甲田:  分かりました。私のところには難病の患者さんがたくさんお見えになるんですね。 癌だとか、膠原病ですね。それからリウマチだとか、慢性肝炎とか、慢性腎炎と か、またアトピー性皮膚炎とか、ほんとに難病の患者さんが殆どですね。そうい う患者さんを見ていますと、みんなそれぞれ悪い癖を持っておられます。間食が 多いとか、甘い物が止められんとか、それから夜食をするとか、いろいろと悪い 癖を持っておられますので、その癖直しをまずやって頂く。その癖が積もりつも って、今の病気になっておるんだ、という。こういう考え方ですね。だから、癖 を直して、正しい生活に入る。その指導がこれから必要だということです。その 中でも一番大事なのは、食事を少食にする、という。この食事療法に、非常にみ なさん困るんですけども、大事なものなんですね。
 
金光:  癖になるというのは、好きだからそうなるんでしょうし、それを控える、という のはやっぱり相当難しいことでしょうね。
 
甲田:  そうです。それは簡単なようにみえて、なかなか直らないです よ。患者さんと話していまして、この人の悪い癖直すのに、何 年かかるかなあ。五年かかるかな、或いは十年かかるかなあ。 いや、この人は、一遍死んで出直してこなあかんなあとか、と いう人もおられるわけですね。だから、あんまり厳しい少食を 最初からやって貰うということは考えものですね。今やってい ることは、大体一日千三百キロカロリー位のこれは一つの例 なんですが、こういうような少食療法を最初にやってもらうこ とにしております。
 

 甲田医院指導の少食療法

 初心患者一般向きメニュー
一、朝食 青汁(五種類以上の野菜) 一合
     人参汁  一合
     ハチミツ 三○グラム

二、昼食 玄米ご飯 一杯 米で七五グラム
 豆腐 二○○グラム
     煮野菜(大根、人参、里芋など) 一皿
 練りゴマ 一○グラム
 昆布粉 少々

三、夕食 玄米ご飯 一杯 米で七五グラム
 豆腐 二○○グラム
     大根おろしにチリメン雑魚
 練りゴマ 一○グラム
 昆布粉 少々

一日の合計 約一三○○キロカロリー
 
 
金光:  これを拝見しますと、朝食は青汁五種類、
 
甲田:  青汁一合と人参の汁一合に、蜂蜜をちょっと、三十グラム位。これで二百カロリ ー位ですね。昼は、玄米を五勺ですから、大体七十五グラム。豆腐が半丁で二百 グラムですね、それと煮た野菜をちょっと一皿付けてあげる。
 
金光:  大根とか人参とか、里芋みたいなものですね。
 
甲田:  そうそう。胡麻をちょっと十グラムと昆布の粉をちょっとですね。これで大体一 食です、昼ですね。晩は、今度は玄米を七十五グラムと豆腐半丁と、今度は大根 おろしにちょとチリメン雑魚のようなものが。胡麻と海苔の佃煮。それを全部合 わせますというと、一日大体千三百キロカロリー。千三百キロカロリーでもほん とは少ないなあと、現代医学ではおっしゃると思います。というのは、我々の身 体には基礎代謝というのがある。基礎代謝というのは、全然動かないでジッと寝 たままで一日にどれくらいのエネルギーが要るか。大人の男子で大体千四百キロ カロリー、女の方で大体千二百キロカロリーです。そうすると、千三百キロカロ リーというと、これは基礎代謝よりも少ないくらい。そうすると、ジッと寝てお ってもこれだけのエネルギーが要るんですから、後、仕事をしたり、歩いたり、 風呂に入ったりして、それだけ動いたエネルギーをやっぱり足さないとだんだん 痩せていくわけです。これが今の医学の常識です。しかし、実際にやりますと、 この千三百キロカロリーで、一時はちょっと体重が減るかも分かりませんが、だ んだんと元気になってきまして、体重の増える人が出てきます。だから、理論と 実際とはちょっと違うところでしょうね。そして、もっと慣れてきますと、もう 千三百どころか千カロリーでも元気にやっていく人も増えてきました。そうする と、今の栄養学というようなものを一遍考え直さないかんなあ、というのが、私 の実感ですね。なんでそんな少ない食事で、我々がやっていけるんか、という問 題については、最近の医学の研究でも、実は腸内細菌が栄養を作って、我々にそ れを供給してくれている、と。そういうような研究がだんだんとハッキリしてき ました。これは、まず最初に一九七二年、徳島大学の医学部の助教授の方で、白 木啓三先生が、パプアニューギニアの住民の食事内容を調査しておられました。 その白木先生が調べられた結果、住民の食べている量というのは、これは動物性 タンパク質が殆どないタロー芋とか、サツマイモとか、野菜類が主ですね。タン パク質の量を調べたら、一日たった十九グラムというような人もいるわけです。 これだったら栄養失調になるような人がいると思うのに、筋肉が立派にあるとい うことです。こんな不思議なことがやっぱりあるんだな、ということを、これが、 『臨床栄養』の昭和四十七年の十一月のに出ておりましたので、私はそれを読ん で、「ああ、人間もそうしたらやりようによっては、腸の中で、栄養を作ってくれ る細菌がおるんやな」と分かってきましたですね。オーメン(Oomen)さんという 方が、その住民の便を調べてみたところが、便の中にタンパク質がたくさんある わけです。タロー芋と、それからサツマイモを食べているタンパク質よりも、便 の中にあるタンパク質の量が多いわけです。それだったら、サツマイモを食べな いで自分のうんこを食べた方がいいんじゃないか、ということになるわけですね。 (笑い)これは腸の中に、そういった菌を一遍捜してみようじゃないか。それが ベルガーソン(Bergerson)という方と、ヒップスレー(Hipsley)という方がそ の細菌叢をずーっと調べましてね。
 
金光:  腸内細菌?
 
甲田:  そういうことです。クレブジーラ エヤロゲーネス(Klebsiella Earogenes)とい う菌が、空気中の窒素を固定して、タンパク質を作ってくれるんだ、と。そのタ ンパク質を、人間が貰えるんだ。こういうようなことがハッキリと分かってきま したね。そうしたら、人によっては、昔から霞(かすみ)を食って生きていけるというのは、 こういうようなことになったら、霞を食って生きていけるようなことにもなるな あ、と。そこで、甲田医院での少食の患者さんたちの中には、そういった腸の中 でタンパク質を作る菌がおるに違いないな、と、私は感じましたですね。大阪教 育大学に奥田豊子先生がおられますが、奥田先生も甲田医院で少食をやっている 方の中に、そういう菌がおるかどうか、ということを調べてみたらやっぱりある わけです。
 
金光:  現代の栄養学というのは、「ある物を如何に摂れば、人間の身体はどうなるか」と いうのは、非常によく研究されておるようですけども、「摂らないとどうなるか」 という研究は今まではなかったようですね。
 
甲田:  そうですね。
 
金光:  ただ、それを甲田先生のところでは、実践することによって、身体で証明されて きた、と。むしろ、そういう方向にきていらっしゃるわけですね。
 
甲田:  そうです。例えば、アトピー性皮膚炎などもそうですけども、アレルギー原が体 内に入ってくる、つまり、泥棒が入ってくる。それをとらまえるために、警官が 必要だったので、抗体が出来て、抗原と抗体と結び付いて、それがアトピー性皮 膚炎の原因になる。考えて見たら、なんでそのアレルギー原が入ってくるのか。 それは腸の粘膜が健全でないからです。戸締まりが十分出来ていない。戸締まり をしっかりすれば、泥棒が入って来れないじゃないか。その戸締まりをしっかり、 健全にするのが、少食と断食だ、と。今の栄養学というようなものは、「何を食べ たら栄養になる」ということだけは、研究をしていますけど、「これを食べて、腸 の粘膜が健全になるか、傷付くか」。そこに関心をもって、研究しておる方が少な い。それでは病気を治すことが出来ない。少食というようなものは、そういう点 で、現代医学の中に、まだほんとに関心がないということは、そういう発想がな いからですね。
 
金光:  先程の表のような少食を一般の家庭で実施するのはなかなか難しいと思います が、先生は、「半日断食」と言いますか、朝食抜きの断食みたいなことを、療法を おっしゃっていらっしゃるようですが、これは、「朝飯は食べなきゃダメだ」と、 いま現代の栄養学の先生方は、大体そのようにおっしゃるようですが、先生は、 朝飯は食べなくて、抜く少食で、これは大丈夫だ、と。
 
甲田:  私が、始めたのは、西式健康法で、朝飯抜きを勧めています。だから、朝ご飯抜 いてからちょうど五十年あまりになるんです。
 
金光:  五十年─。
 
甲田:  ええ。五十年です。そういうことから、私がやっていると同時に、もう何万人と いう患者さんに、朝ご飯抜きの半日断食をやってもらってきたんです。結論して 言えば、半日断食の方が正しいと、私は確信をもって申し上げることが出来るわ けですね。
 
金光:  現に半日断食を続けている方がそんなにいらっしゃるわけですか。
 
甲田:  私は、何万人という方を指導してまいりました。そこで分かることは、入れるよ りも出す方にもっと力を入れたらどうか、と。栄養を摂ることばっかり考えてい ますけど、取り入れた栄養で老廃物が出来る。その老廃物を完全に出すというこ とを考える。飢えた時に老廃物が出るんだということを、それを私は強調したん です。
 
金光:  上から入るから出るんじゃないんですか。
 
甲田:  飢えた時に初めて出るんです。
 
金光:  そうですか。
 
甲田:  これはどうして分かったかと申しますと、モチリンという消化ホルモンがあるん です。モチリンという消化ホルモンは、これは一九七一年に、カナダのブラウン 博士が発見したんです。消化管ホルモンです、消化管のホルモンは、十二指腸か ら出るんですが、一般の消化管ホルモンというのは、食べた後に出るわけです。 食べたものを完全に消化吸収するためにホルモンが出るわけですが、ところが、 モチリンというホルモンは、まったく逆なんです。腹が減った時に出るんです。 何の役割をしているかというと、モチリンは、腸の動きを活発にする。腸の内容 物を下へ送って、完全に排泄する。その作用です。これはギリシャ語で、モチル スというのは、運動ということです。腸管に運動を与えるホルモンということで す。我々は、そのモチリンがいつ出るのかと申しますと、腹が減った時出るんで す。
 
金光:  そうですか。
 
甲田:  腹が減った時に、腸が動くんです。ところてん式に動くんじゃないんです。腹が 減ったら、腸が動くわけです。そうすると、我々は朝起きて、そして腸が動くま で待って、即ちモチリンが十分に分泌されて、腸が動いて、内容物を完全に排泄 する。それから食べるのが順序です。出すのが先ですね。そこから考えてみます と、今の人たちは、夜、遅くまで起きて、夜食して、そして朝起きて、まだ腹も 減らないけども、そそくさと食べて、そして職場に行くとか、学校に行くわけで す。そうしたら、モチリンの出る場がないわけです。腸が動かないのに食べて、 それでだんだん腸に宿便を溜めていくわけです。その宿便がいわゆる万病の元に なっている。
 
金光:  そうなんですか。
 
甲田:  そういうことです。
 
金光:  ただ、私も、内視鏡を大腸に入れて貰いましたけども、いま画面で見えますよね。 別になんかこう固まりがくっついているようには見えなかったようですが。
 
甲田:  現代医学者たちは、宿便の存在を否定する方が多いんです。それは内視鏡なんか で調べて見て、「宿便らしきものがないじゃないか。宿便がある、というのは、こ れは一般民間療法の言い伝えで、あんなものはもう信用なんかできん」というこ とを真面目にいう人もおりますね。私は、宿便というものは、そんなものじゃな いんだ、と。宿便の定義というようなものは、まだないわけですが、私は、「胃腸 の処理能力を超えて、負担をかけ続けた場合に、腸管内に渋滞する排泄内容物」 と。
 
金光:  渋滞物だということですか。
 
甲田:  渋滞。すなわち、自分の胃腸の処理能力を超えて食べる。この処理能力がどれく らいかということを知っている人が殆どおらない。また知っておっても、処理能 力以内に抑えることが出来ない。それは、例えば、今晩すき焼きを食べた。美味 しかった。腹いっぱい食べた。計算して見たら、千五百カロリー位ある。それに ビール三本飲んで、それでピーナッツを二袋食べた。計算して見たら、三千三百 カロリーある。これは明らかに胃腸の処理能力を超えて食べていますからね。だ から、ああ、苦しいなあ、と言って、寝ますね。それで朝起きたら、まだもたれ て、全然お腹が空かない。これは一食抜かんといかんな。しかし、ちょっとは食 べなければいかんというので、パンを一枚位と牛乳一本飲んで、職場へ出て行き ます。腹が全然減りません。昼は一食抜かなあかんなと思っておっても、同僚が 出張から帰って来まして、「お前の好きな寿司や」と言って渡します。ああ、見た ら美味しそうな寿司です。腹は減らんけど、一個位食べようかと思いますね、一 個で済まんですね。全部食べてしまう。また腹いっぱいになった。今晩こそは一 食抜こうかと思って家に帰って来たら、郷からお爺ちゃんが帰って来て、「お前の 好きな芥子明太子と寿司や」と言われて貰う。これも食べて明日から少食にしよ う。こんなことをみんなやっているわけです。処理能力を超えて、こんなことを 毎日やっていたら、どうなるか、というと、人間の場合は、交通マナーのように、 通行止めはしないんですね。腸管がだんだん伸びくるわけです。伸びて膨らんで きます。これがいわゆる腸マヒですね。そこへ渋滞したものが分解されて、悪い 毒ガスのようなものがいっぱい出て、吸収されて、血液の中に廻ってきたら、頭 が重い、肩が凝る。足が怠い、腹が張ってきた。こういう症状がいっぱい出てく るわけです。それを見ていましたら、ああ、やっぱり宿便を取らなければあかん な、と。ところが、頭が痛いと言ったら、頭痛剤だけを貰う。腹が張ったら消化 剤とか、足が怠いと言ったらビタミン。これではほんとに治ないですよ。宿便と いうものを見たことのない者は、理論から否定しておられますけども、実際の宿 便を目の前で見れば、考えは変わってくると思うんですね。例えば、私のところ に、今、入院しておられる患者さんで、二人方が、一人は一ヶ月間の断食、一人 は十日間の断食ですが、殆ど毎日のように宿便がドッサリ出てきます。その方々 の話をちょっと聞いて頂きましたら、ほとに宿便て、こんなにあるのか、という ことが、分かって頂けると思います。
 
金光:  それじゃ、お二人のお話をお伺いしたいと思います。
 
甲田:  分かりました。
 

金光:  こちらにいらっしゃって、どのくらい経つんですか。
 
針山:  今日で三十二日目です。
 
金光:  で、どんな形での断食を始められて、どういうふうに変わって きているんでしょうか。
 
針山:  四月八日から、朝食は無しです。昼と夜に青汁一合と、それか らミカンが一個、リンゴが一個を頂く断食を初めてずーっと続 けております。
 
金光:  あと、水、液体はお飲みになるんですか。
 
針山:  お水を一日に一リットルとあと柿茶を一リットル頂いておりま す。
 
金光:  お腹が空きますでしょう。
 
針山:  いや、ところがですね、私の先生から、「断食」と言われた時は、ちょっと覚悟致 しましたんですけれども、リンゴとミカンを頂けるということが、とってもお腹 が空かないんですね。
 
金光:  へえー。
 
針山:  もう三週間近くなりますと、それはちょとは空いたかな、という感じもありまし たけれども、それを続けていきますと、よく先生は、「無感の状態」とおっしゃる んですけど。
 
金光:  感じない。
 
針山:  感じない。ほんとにお腹が空かないんです。空いたという感じが無くなって、あ あ、こういう感じなんだなあと初めて分かって、とっても嬉しいです。
 
金光:  あ、そうですか。それじゃ、あれが欲しい、これが欲しいみたいな気持はそんな に出て来ないんですか。
 
針山:  はい。
 
金光:  それは身体の状況も最初の頃と変わってくるものですか。
 
針山:  変わりました。というのは、毎日宿便がたくさん出るんですね。最初は今まで食 べていたのが、出ているのかなあ、と思いましたけれども、それが一ヶ月経って も殆ど変わらない状態で、出続けているので。
 
金光:  でも、さっき伺った量だと大した量じゃないわけでしょう。
 
針山:  ええ。ですから、最初はもうほんとに宿便だというのが分かりますね。色とか臭 いでね。ほんとにたくさん出ていまして、それがだんだんミカンとリンゴという のは、色とか臭いで全然宿便とは違いますので分かります。ですけども、それに 宿便が混じっているのを、私のお腹にそんなにたくさん毎日出るほど溜まってい たのかなあって、ほんとにビックリしております。
 
金光:  それは二週間、三週間経ってもまだ出るんですか。
 
針山:  はい。まだ出ています。
 
金光:  やっぱりそれだけどっかにあったわけですね。
 
針山:  としか考えられないんですけれども。
 
金光:  そうですか。で、体調も変わってくるものですか。
 
針山:  はい。耳鳴りとか、ちょっと身体の怠さとかありましたのですが、それがすっか り消えてしまって、このお食事していましても、普通の生活ができるんです。
 
金光:  よく「腹が減っては戦が出来ぬ」なんて言いますけれども、身体を動かすのが怠 いとか、そんなことないですか。
 
針山:  全然ありません。朝、目覚めもいいですし、こちらで西式の体操とか、いろいろ 自分でやるメニューがございますけれど、それも楽々こなせますし、一時間の散 歩とか、青汁作ったりとか、お掃除とか、普通に出来ています。
 
金光:  そうですか。
 
針山:  それには、私も本当にビックリしています。
 
金光:  そちらの廣瀬さんの方は何日位?
 
廣瀬:  今日で十一日でございます。
 
金光:  そうですか。最初はどういう覚悟で来られたんですか。やっぱり断食ということ で─。
 
廣瀬:  断食とはおっしゃったけれども、私は、生野菜が非常に不得手の人間で、
 
金光:  生野菜が─。
 
廣瀬:  生野菜食というのは、私はよう出来るだろうかと思いました。けれども、まさに 生野菜汁なんですね。けれども、リンゴとミカン一個ずつというのがちょっと嬉 しいというような感じがして、それだけで今までやりましたけど。何とも身体が 変わったみたいな感じで、私は生野菜が食べられないと思ったけど、楽々食べら れる。というのも、針山さんがおっしゃったように、もうなんというか、古い便 というか、汚い、臭い便が、黒っぽい便がどうどう出ましてね。私は十一日 目ですけど、毎日出るというようなことで、それで、それをもって、これが出た らどうなるだろうと思って、身体が変わるのかなあと思いました。
 
金光:  そうですか。夜お腹が空いて眠れないとか。
 
廣瀬:  いや、そんなこと絶対ないです。それを頂いたら、何にもゆっくりした気分で、 それで楽しいような、嬉しいような、毎日が。
 
金光:  例えば、お若い方はご存じないかも、戦争中とか、戦後、物がない時は夢に食べ 物の夢を見るということもあったという話をよく聞くんですが、別にそんなこと ないんですか。
 
廣瀬:  ないですね。もうほんとにこれは満足やね。この断食だったら誰でもやれるんじ ゃないかと思うぐらいです。
 
金光:  で、体調は?
 
廣瀬:  体調はいいのと、私は血圧が少し高かったけど、もうずーっと落ち着いたままで、 非常に気分も爽やかでいいです。
 
金光:  むしろ昔いろいろ召し上がっていた時よりも、此処でいらっしゃる方が体調がよ ろしいですか。
 
針山:  はい。体調はいいです。ほんとに私は便秘ということは、この療法を続けていま すのでないんですね。ですから、便が出ているからまさかこんなにたくさん宿便 が溜まっていたということはほんとに驚きです。
 
金光:  そうしたら、それだけ身体が軽くなるような感じがするかも知れませんね。
 
針山:  はい。軽くなります。
 
金光:  そうですか。そういう楽に続けられれば、こんな結構なことはないわけでござい ますね。
 
針山:  そうですね。
 
金光:  どうもまた元気でお続け下さい。どうも有り難うございました。
 
針山: 廣瀬: 有り難うございました。
 

 
金光:  今のお話を伺ってきまして、食べ物、食事についての自分の考え方みたいなもの も変わらないと、美味しいから食べる、食べて何で悪い、なんていう次元だと、 いつまで経っても止められないと思うんですが、その辺はこちらに入った方なん かはどういうふうに変わっていくわけですか。
 
甲田:  これはやはり食べ物をいのちとして見て、そして必ず一枚の菜っぱにも、一粒の ご飯にも感謝の気持を捧げて頂くということが、非常に大事だということですが ね。で、水でもやはり感謝して頂いて飲む。これは江本勝さんという方が、『水の 結晶』という本の出しておられますけども、感謝して飲んだ場合の水の結晶とい うのは、実は綺麗です。ところが、「こんなもの」と言って、怒鳴りながら水を飲 む場合は、その水の結晶そのものがめちゃめちゃになってしまう。水にもいのち があるんです。ましてや、我々の米とか、菜っぱにはね、尊いいのちが宿ってい るんです。それを感謝で頂くことこそが、やっぱりその人の本当の血となり肉と なるんだ、ということを、科学的に実証していく必要があると思いますね。
 
金光:  動物だけいのちがあるんじゃなくて、菜っぱとか水にもいのちがある。
 
甲田:  そういうことです。だから、共生時代になりますというと、人間のいのちだけで はなしに、すべてのいのちと共存共生をはかっていく。これなしに、二十一世紀 からの人類の繁栄はあり得ない。いま人類が非常に大きな行き詰まりを迎えてい る。それは何故かと申しますと、これは人類がこの地球上に出現してから、四百 万年の間に取ってきた人類独尊という差別思想なんですね。人類に役に立つ生き 物は飼い慣らして、それで利用する。人類に害を与えるものは、もう皆殺しにし ている。農薬をばらまいたり、抗生物質を乱用する。そういうふうにしてやって きた結果として、環境汚染という、大きなつけが回ってきたわけです。このまま いけば、人類は滅びる、それどころか地球そのものも壊れてしまう。そういう段 階にきておるわけです。我々が、ここで本当に反省して、今までの人類独尊とい う差別思想を改めて、すべてのいのちと、人間だけではなしに、動物、植物、微 生物、すべてのいのちを大事にするという、この生き方に変えなければならない。 そういう時世になってきたわけですね。少食というものは、その意味で、動植物 のいのちを無駄に殺生しないという愛と慈悲の思想なんです。我々がほんとに幸 せになるためには、愛と慈悲を実行しなさい。これがお釈迦さんの教えであり、 キリストの教えであります。それを食生活でいえば、少食ということです。この 少食という愛と慈悲を実行するものに、神様は健やかに老いていく、幸せを与え 給うわけです。これを離れて、我々の幸せはあり得ないんだ、と。私は、これを 霊学的にも、断食とか、少食というものはいかに素晴らしいものであるかという ことを、証明する時期がやってくる。例えば、断食によって、遺伝子も変わる。 少食をすれば遺伝子も変わるぞ、ということがだんだんとハッキリと分かってき ましたからね。
 
金光:  ということは、どういうことなんですか。遺伝子が変わるということは。
 
甲田:  例えばですね、断食をすることによって、クローン羊が産まれてきた。クーロン 羊というドリーちゃんですね。これは一九九六年六月五日に、イギリスのエディ ンバラにあるロスリン研究所のイアン・ウィルムットさんが発表しているわけで す。メスの妊娠している羊の乳腺細胞を取ってきて、それに断食をさせた結果、 乳腺細胞から一匹の羊が生まれたということです。
 
金光:  え、「細胞に断食をさせた」ということは、どういうことなんですか。
 
甲田:  これは、普通の細胞を培養するじゃなしに、細胞の核を取って、その細胞の遺伝 子が、オフからオンにするために、断食するわけです。
 
金光:  細胞の断食というのは、どういうことなんですか?
 
甲田:  これは培養液の濃度を十パーセントから○、五パーセントに落とすわけです。
 
金光:  あ、そういうことですか。
 
甲田:  培養液に全然栄養がないわけですね。その細胞は断食しているようなもので、そ ういうショックですね。今まで眠っていた遺伝子がオンになるわけです。我々の 今までの常識では、乳腺細胞は何遍分裂しても乳腺細胞です。
 
金光:  ある細胞になったら、それこそ変わったらえらいことですから。
 
甲田:  乳腺細胞は何遍分裂しても乳腺細胞ですが、その乳腺細胞から一匹のドリーちゃ んが生まれたんですからね。心臓も出来た、肝臓も出来た、脳も出来た、目も出 来たということです。それは結局眠っておった遺伝子が全部オンになったという ことです。そうすると、断食すれば遺伝子も変わるんです。また少食になれば遺 伝子も変わる。また思いを変えることによって遺伝子も変わる。このように現代 医学の遺伝子レベルで、少食の良さが証明されてくる。例えば、カリフォルニア 大学にスチーブン・スピンドラーという先生がおられますけども、マウスを飼う のに、一週間で九十五キロカロリーが普通なんですね。
 
金光:  食べさせるものが。
 
甲田:  そうです。そのマウスの餌を、二週間八十カロリーにします。次の二週間は五十 三カロリーにします。そうすると、九十歳のマウスの遺伝子が、十九個若返った ということです。だから、もしそれをずーっと続けていけば、そのマウスの遺伝 子が若々しくね、発動しますから、そこで長生きも出来るし、死ぬまで元気だと いうことです。私は、「少食に病無し」というのは、このことだ、と。
 
金光:  寝たっきりみたいな状況にならなくてすむ、と。
 
甲田:  そういうことです。その点では、「少食に病無し」なんていうことを、私は申し上 げたいわけです。そこで少食になればどうなるかというと、少食になるほど、質 を選ばなければいかん。白米よりは玄米とか、或いは白パンよりは黒パン、白砂 糖よりも黒砂糖。それから鰤の照り焼きとか、マグロの刺身よりは、小魚を食べ る。
 
金光:  全部を食べるということですか。
 
甲田:  そういうことです。
 
金光:  ある部分、美味しいとこだけということではない、と。
 
甲田:  そう。選り取りみどりのそんな摘み食いするから、三十種類食べないとバランス の取れた栄養が摂れない。しかし、今の質を選べば、半分の種類で十分だ、と。 今の栄養学の中に、いのちというものをもう一遍考え直して、そして、ほんとに いのちを生かす食べ方。共生時代の栄養学というものを作り直していかないと、 差別思想の栄養学が罷り通っているというようなことでは、これはやっぱり本当 の人類の幸せにならないと思います。
 
金光:  そうすると、今の地球の状況なんか考えますと、その個々の身体の病気を直すな ら病気を治すことだけ、それから社会は社会のこと、或いは宗教は宗教だけとい うバラバラでないところで、もう一度見直すということがどうしても必要になる ということですね。
 
甲田:  そうですね。先程、半日断食の話を致しましたけれど、一人が朝飯を抜くだけで、 どれくらいの経済的な節約になるかということです。朝ご飯一食で、三百五十円 というような、そういう調査報告があるわけです。一人で三百五十二円ですが、 一億の方が朝ご飯を抜きますと、一日で三百五十二億円節約出来ます。一年間そ れを続けますというと、十三兆円の節約になるんです。そして、さらに一週間に 一日の断食をやりますと、十兆円がこれで浮いてきます。両方合わせて二十三兆 円の節約になるんですね。今、医療費が大体三十兆円と言われますね。一九九九 年は、三十兆九千三百三十七億円です。これは朝飯抜きの半日断食と一週間に一 日の断食をやることによって、医療費が激減するだろう。そうすると、今の医療 費がこれから後二十年経てば、これが八十兆円になるだろうと言われていますけ れども、そんなにたくさん財源がない我々にとって、この半日断食と一日断食こ そが、経済的な面で、大きな救い主になるだろう、と。今、我々にとって一番大 事なことは、あまり目先のことを考えたらいけない。こうすれば幸せになると思 ってやっているけれども、だんだんと頭を打って、それに気が付くわけですが、 それは、思いが間違っているからだ、と。目先の思いだけでやるから、行き詰ま るのであって、いのちよりも経済が優先するというような考え方をひっくり返し て、ほんとにいのちを大事にするという社会を作っていく。ここで、般若心経の 中に、昔から伝えられておりますが、やっぱり我々は目先のことだけ考えないで、 ほんとに仏の道に適った思いに切り変えなければいけない。「遠離一切顛倒夢想」 (般若心経)していきますからね。この一遍ひっくり返してみよう。目先のこと を考えない。
 
金光:  ひっくり返った逆さまのことを考えるな、ということですね。
 
甲田:  そういうことですね。そうすると、ほんとに心に安らぎが生まれて涅槃に至るこ とができるという、この教訓をもう一遍噛み締めて、我々が考え直す必要がある だろう、ということです。
 
金光:  その実践の道として、先程から、少食・断食、そういう例を出して下さっている けれども、その半日の断食、朝食抜きの半日断食のようなものであれば、これは そう難しくないと思いますけれども、断食というのもこれは効き目があるだけに、 非常に危険なケースもあるように伺っておりますが、この辺はどういうことでご ざいましょうか。
 
甲田:  その通りなんです。これは、「断食はいい。断食はいい」というので、自分で勝手 に断食をやって失敗した例がたくさんあります。だから、半日断食位ならばまあ 誰でも。しかし、一日断食とか、二日断食とか、長い断食なんかはいっさいやら ないということが大事なことです。もしやるならば適当な指導者について、やっ て頂きたい。これだけはくれぐれも注意をして頂きたい、とお願い致しておきま す。
 
金光:  どうも有り難うございました。
 
甲田:  いや、こちらこそ、有り難うございました。
 
 
     これは、平成十四年六月二日に、NHK教育テレビの
     「こころの時代」で放映されたものである